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ねこまたまめこは夢を見る。 へお越しいただきありがとうございます。

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Alice's memories



【 Alice's memories 】







 少し前までは青々とした並木道だったのに、気づけば秋の色が大分見え隠れし始めていた。
 最寄駅までの慣れ親しんだ道のりを、お気に入りの赤い自転車を漕いで進む。
 進むたびに切る風は、心地いいくらいに柔らかかった。
 並木道を越えたら、目の前には海が見えるT字路。
 そこを右に曲がって見えてくるのは海を見守るように立ち並ぶ家々。
 皆古めかしいレンガ造りで、どこか現実離れした不思議な世界のように見える場所だ。
 そんな所が自分は気に入っている。
 自転車を漕いで進んでいると、今まで見過ごしていたが、周りの民家とは少し異なった趣の小じんまりした建物があることに気付いた。
 興味がわいたので足を止めて建物に近づく。
 店の扉の前には、可愛げのない大柄の猫が丸くなって寝ていた。
 その扉には『CLOSE』と書かれた札がかけられている。
 どうやら何かの店らしい。
 大きなガラス窓に近寄り店の中を覘いてみる。
 水晶で出来たチェス盤と駒。
 凝った柄模様の小箱。
 手の込んだ刺繍が施されたテーブルクロス。
 テーブルの上に散りばめられたタロットカード。
 店の主のような大きな振り子時計。
 そんな店の中にある物全てがどこか古ぼけているのに、不思議なくらいに魅力的だった。
 一通り見終わり、最後にカウンターらしき場所の横に置かれた椅子の上に腰かけた人形に目がとまる。
 頭を飾る大きなリボンが特徴的などこか寂しそうな表情をした少女の人形だった。
 その人形は、陰っている側の右側の瞳の方だけが妙に明るく輝いていた。
 それが、まるでその人形が生きているかのようにみせている。
 怖いと思う反面、これほど魅力的な人形は見たことがなかった。
 その人形をじっと見ていたら、ジーンズの後ろポケットに入れていた携帯電話が振動したので、ガラス窓から離れて電話を取る。
 電話は友人から。早く駅に来いという催促の電話だった。
 腕時計を見ると、待ち合わせ時間を十分ほど過ぎていた。
 時間に余裕を持って出てきていたはずなのに、どうやら思いのほかここに立ち寄っていた時間が長かったらしい。
「ああ、悪い。すぐ行く」
 電話を切って再度目線を店へと向ける。
 少しガラス窓から離れただけなのに、ここからでは光の具合で中の様子はまったく見えなかった。
 扉の前に寝ている猫が迷惑そうに半目を開けて尻尾をぽふりと一度だけ波打たせた姿を視界の端で捉え、自転車にまたがり再びペダルをこぎだした。



   ☆ ☆ ☆



 彼女に「アリス」と名前を貰ったあの日から、どれほどの歳月が流れたのでしょうか。
 少女だった彼女は大人となり、今では老女と呼ばれる歳にまでなっていました。
 そして今、彼女は静かに眠るようにして、私と、この世に別れを告げて行きました―――。


 それから時は流れ。
 彼女が居なくなってからも私は、沢山の人の手を渡り、長い長い歳月を生きて、大きな窓からキラキラト輝く海がよく見えるこの場所へとやってきました。


 ある朝の事でした。
 聴き知ったベルが鳴り訪れたのは、何時も扉の前でお昼寝をしている猫さんでした。
 猫さんは何日かに一度だけ、扉を手で叩いて扉を開けてもらうと、私の下へとやってきます。
 猫さんは何をするでもなく、のんびりと部屋の中を歩きまわり、最後に私の座る椅子に飛び乗って、しばらくの間だけお隣でお昼寝をするのです。
 けれど今日は何時もと少し違っていました。
 猫さんは、淡い桃色をした小さなウサギさんを銜えて私の所にやってきて、私の膝の上にウサギさんを乗せました。
 それからはいつものように部屋の中をのんびりと歩きまわり、最後に私の座る椅子に飛び乗ってお隣でお昼寝をして行きました。
 伝わらないと解っていても『どうして?』と、心の中で猫さんに問いかけました。
 猫さんはそれに返事をするかのように一度だけ「にゃあ」と鳴いただけでした。


 その日の夜の事です。
 その夜は、今宵は雲ひとつない夜空に瞬く綺麗なお星様たちと一緒にまん丸としたお月様が静かに輝いていました。
 今日のお月様はまん丸で、とても綺麗ね。
 そう思って眺めていたら、目の前が真っ白になって、何も見えなくなったのです。
「きゃっ!」
 思わず声をあげました。
 そして、挙げた声に驚き、手で口を押さえます。
「な、……えっ? どうしてっ……?!」
 私は人形のはずなのに。
 どうして今、声が出せるのでしょうか。
 どうして今、体を動かす事ができるのでしょうか。
 初めての事ばかりで、何がどうなったのか、まるで理解することができませんでした。
「急に、目の前が真っ白になって……それで……」
 不思議に思いながらも、今私は思った事をしゃべる事ができて、思った通りに体を動かす事ができるのです。
 今はそれさえ解ればいい。そう思いました。
「お月様の悪戯かしら……?」
 私は膝に乗ったウサギさんを落としてしまわないように抱き上げて、椅子の下をのぞきこんでみます。
「椅子ってとっても高いのね。これじゃあ降りたらここに戻ってこれそうにないわ」
 せっかく動けるのに動き回れないのは少し残念でしたが、急に動けなくなり床に座ったままでいたりしたら気味悪がられてしまうと思って椅子の上から動くのは諦めて、元のように座りました。
 そして、人が何時も私に話しかけるのと同じように、私はウサギさんへと話しかけてみました。
「ねえウサギさん、私の声が聞こえるかしら?」
 聴くことはできた私と同じように、ウサギさんに話しかければきっと聴いてくれているだろうと思って、両手でウサギさんを持ちあげ、目の高さを合わせて。
「私のお話、聴いてくれる?」
 笑顔というものをどういう風に作ればいいのかわかりませんでしたが、私が見てきた沢山の笑顔をみならって、こうだろうと思ったように表情を動かしてみます。
 そして、膝の上にウサギさんを乗せて、私は、深く深く心に刻まれた思い出を語る事にしました。
「私はね、アリスと言うの」
 一番思い出深いのは、初めて私に名前をくれた彼女のことです。
 出会った事。
 名前を一生懸命考えてつけてくれた事。
 私の髪を優しく梳きながら、毎日の出来事を私に教えてくれた事。
 プレゼントの箱をラッピングしていた、レースのついた綺麗なリボンを私にプレゼントしてくれたこと。
 彼女が大きくなって着れなくなったお気に入りのワンピースの生地をつかって、私の服を作ってくれた事。
 彼女が結婚した事。
 彼女に子供が生まれた事。
 彼女が静かに眠るように息を引き取った事。
 嬉しさ。楽しさ。驚きや悲しみ。
 彼女と経験したことすべてが、初めての事でした。
 その頃の思い出は、長い長い歳月が過ぎた今でも、鮮明に思い出せる大切な思い出。
 彼女と別れてからも、沢山の人たちと出会い、沢山の思い出が出来きました。
「けれど何時も、最後にはお別れが待っているの」
 出会ってしまったら、必ずお別れがやってくる。
 そして、寂しくて、悲しくて、辛いと思う気持ちがまたやってくるのです。
「出会う事も、別れる事も、人形の私には選べないのよね」
 こうして何時もしゃべる事が出来れば、少しは違ったのかもしれません。
 また、そうでないかもしれません。
 解るのは、自分で選ぶ事が出来なくても、彼女と出会うことは出来きて、彼女との思い出を作ることも出来きたと言う事。
 そして、彼女の後に出会った人々との思い出を作ることが出来たという事です。
「不思議だわ」
 確かにお別れをした思い出が最後の思い出となる事ばかりだけれど。
「楽しい思い出が沢山あるから、お別れするのが悲しくて、寂しいと思うのね」
 そうして沢山しゃべっているうちに、いつの間にか海はうっすらとお日様が見える前の明るさが広がっていました。
 いよいよ朝がやってくるとお告げのように深い深い音で振り子時計が鳴りだします。
「また、朝がやってくるね? ウサギさん」
 私はウサギさんを抱き締めました。
「私たちも人と同じね。こうして出会えた。だから、いつかお別れをすることがあるかもしれないわね」
 ゆっくりとお日様の光が海をどんどんと照らしてゆきます。
「でも。出会えなかったら、思い出を作る事も、お別れする事もできないのよね? それも寂しい事な気がするわ」
 幻想的な色合いに海が染まって、空も同じように照らされてゆきます。
「寂しがってばかりじゃ駄目、なのよね、きっと。だって、私は彼女よりも沢山の刻を過ごした分、楽しいばかりではないけれど、沢山の思い出が作れたんだもの」
 刻々と変わる景色を眺めながら、ウサギさんを抱きしめた腕を緩めて、元のように膝の上に乗せました。
「今日は、楽しい思い出が作れると嬉しいな……」
 お日様がゆっくりと顔をのぞかせます。
「ね? ウサギさん」
 お日様の光が、窓辺に置かれた、一つだけ倒れている水晶の駒に当たり、部屋の中を照らしだします。
 ゆっくりと、ゆっくりと、その光は私の下に近づいてきて、私の足を、体を照らしてゆきます。
 そして、目の前がぱっと真っ白になった瞬間、小さな声が聴こえました。
『そうだね』
 それは誰の声だったのか、はっきりと解りませんでした。
 けれどきっと――――――。




   ☆ ☆ ☆




 学校が終わり、友人と一緒に自転車を走らせ家までの道のりをのんびり走る。
 くだらない会話をしながら走っていると、目の前にふと、この前初めて見つけた店に、明りが灯っている事に気づいた。
「なあ。ちょっと寄り道していいか?」
 疑問の声を上げる友人に構わず、ゆっくりと店の前でとまる。
 店の扉には既に『CLOSE』の札が掛けられていて、扉の前には以前と同じように可愛げのない大柄な猫が丸くなって寝ていた。
「お前、ここの猫?」
 猫に向けて問いかけると、猫は尻尾をぽふりぽふりと二度波打たせた。
 それがどちらの答えなのかわからなかったが、思いのほかその姿が可愛く見えたので良しとする。
 今回は近くに寄らなくても、中の光でよく見える店の中を大きなガラス窓から覘き見る。
 以前とは少しだけ雰囲気が違っている店内。
 それが朝と夜との違いだけではなく、置いてある物が少し異なっていたからではなく、それ以外の何かが異なっているからのように思えた。
 一通り店内を眺めて、最後に目が止まったのは、あの不思議な魅力をもった人形だ。
「あれ? なんか前と違うような……」
 人形は以前と同じ場所に座っていたが、以前とは異なり、人形の膝の上には淡い桃色の小さなウサギの人形が座っていた。
 そして――――――。
「おい。何してんだ?」
「ん? うん。何でもない」
「何だよそれ?」
 この前とは違い、その人形は穏やかな微笑みを浮かべいるように見えた。
「あー、腹減った! どっかで寄り道してなんか食べて帰ろうぜー?」
「なんだよ唐突に。ま、賛成だけど」
 自転車に跨り、ペダルに足を乗せる。
 そこでもう一度だけ少女の人形を見た。
「元気が出て何より」
 そしてゆっくりとペダルをこぎだした。




【お題】 満月 うさぎ


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紳士同盟アリス





2009⁄09⁄30(Wed) 00:00
ジャンル:小説・文学  テーマ:自作小説  カテゴリー:自作小説
comment(4) trackback(0)
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【 コメント 】



林檎さんのイラスト&ポエムも見てきました!
そちらを見てから改めて読むと、またいいですね^^

2番目の章が好きです。
物語の肝ですが、人形が動き出すという設定が突飛にならずにいい感じです。
(説明が下手・・すみません)

ラストの台詞もいいですねー。

猫になってそこに居てみたいと思いました^^

2009/10/01 13:15 URL | 恵以子 [ 編集]

こちらの方はコラボですかー

形あるものはいつかはなんとやら
でも大事にされている人形は大事にされているからこそ、残されていく うーむ人形からしてみれば悲しくて寂しい部分もあるんでしょうね

この3パートの構成も、どこにもない時間に飛んで戻ってくるような感じがしていいと思います!
2009/10/03 10:59 URL | tone [ 編集]

>恵以子さん

イラストとうまくコラボレーション出来てたか心配でしたが、なんとかなったみたいで安心しましたー。

人形を動かすのが頗る大変でしたが、気に入っていただけて良かったです^^

私はこの猫のような生活がしてみたいですっw
2009/10/06 22:26 URL | yumi@管理人 [ 編集]

>toneさん

そうです。初のコラボ作品ですよー。

人形は人の形をしてるからこそ、人が話しかける事って多いと思うんですよ。
だから、こういった思いをしてる人形は結構居そうかなと?w

同じ時間の流れに居るのに、人と人形と二つの視点で書いたら、思いのほか不思議空間からの脱出がうまい事行きましたっ。
実はそこ、書いた自分が一番驚いてるんですけどねっ?!


2009/10/06 22:40 URL | yumi@管理人 [ 編集]
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管理人 : yumi
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