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■ご挨拶■
本ブログは、管理人である yumi が書く、自作小説を主としたブログサイトとなっております。
素人の書く文章であるため、何かと不都合があるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。
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本ブログ内全ての著作権は管理人であるyumiにあります。
文章・画像等の無断転用等は行わないようお願いいたします。
※著作権について詳しくはコチラをご覧ください。
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オリエント王立交響楽団物語 (全4話)
【第二楽章】 陽気な鎮魂歌
それは、彼にとって、偶然の再会だった。
白髪交じりの冴えない顔立ちをした貧乏貴族のロビンは、馴染みの酒場で一人酒を飲んで居ると、急に辺りが騒々しくなり、気づいた時には、楽器を持った連中が小上がりの小さな舞台に立って居た。
皆緊張した面持ちで舞台上に立っている中、ただ一人だけ、穏やかな表情をした男に目が止まる。
その男の顔は、ロビンの記憶のどこかにある顔をよく似て居た。
一体誰だっただろうかと酔いのまわり始めた頭で考えを巡らせていると、音合わせを終えて演奏をしだしたその音色に、酔いも一気に冷めて、舞台の横端に座るチェロを弾いている男を凝視する。
「……クラウ・カッツェ?!」
彼は、嘗ての同胞であり友人でもあった者の名を、小さく呻くように零した。
十年と少し前。
地方の貧乏貴族の三男として生まれたロビンは、少しでも家の為に何かできないかと考え、幼い頃からヴィオラを手に取り演奏する毎日を過ごしていた。
成人する頃にはその腕前はかなりのものとなっており、オリエント王立交響楽団の元団員だと言う男の耳に彼の噂が届くと、入団試験を受けてはどうかと言われ、彼から渡された推薦状手に彼は王都へと向かった。
国内最高峰の楽団オリエント王立交響楽団の入団試験は実に簡素なもので、団員達の前で演奏するだけ。
幸い、実力を認められ入団する事が決まったロビンは、同日に受かった没落貴族の末裔であるクラウ・カッツェと意気投合し、彼と同じ日々を過ごすこととなったのである。
だが、オリエント王立交響楽団は、世界最高峰と言われるが故に、貴族達の権力争いの場の一つとなっており、有力な貴族が顔を利かせ、それに逆らうものは実力がどれ程のものであっても、迫害される運命にあった。
ロビンとクラウ・カッツェはまさに、その標的とされ、満足な結果を残すことすら許されずに、楽団を後にすることとなった。
先に弾かれたのはクラウ・カッツェの方だった。
一度耳にすれば、きっとその音色に魅了されるであろう、彼の奏でる美しいチェロの音色が仇となったのは不運な話である。
当時、抜きんでた実力を持ち合わせて居たクラウ・カッツェを妬む者は多く、劣悪極まりない貴族達の言動に耐えきる事が出来ずに、僅か半年という短い在籍期間で彼は楽団を出て行った。
「ここに、君一人残して行くことを許してほしい」
疲弊しやせ細った友からの謝罪と心から心配してくれる優しさを感じ取り、ロビンは涙を流して何度も感謝したものである。
だが、クラウ・カッツェが楽団を去ってから二月後、ロビンもまた楽団を出ることとなった。
ロビンは、しばらく楽器に触れることすら出来ない精神状態に陥り、次第に音楽を嫌悪するようになった。
十年以上経った今も、音楽に対する嫌悪感は変わらず、その元凶たる楽団員であった過去を誰かに話す事もせずに、食べて行くために、時折死者に手向ける鎮魂歌を墓場の前で弾く暮らしを続けていた。
そんな彼にとって、その懐かしいチェロの音色は、感じ続けて居た嫌悪感を一瞬にして払拭してしまった。
自然と涙が頬を伝って落ち、負の感情が、徐々に徐々に洗われて行くのを感じ取る。
演奏が終わると、彼は誰よりも心をこめて、友に向けて拍手を贈り、残っていた酒を一気に煽ると、名残惜しい気持ちを抑えてロビンは酒場を後にした。
「悲観に暮れて、鎮魂歌ばかり弾いて。一体、私は何をしているんだ……?」
賑わいを増す酒場街から抜け出し、ロビンが向かったのは、馴染みの霊園。
霊園に馴染むというのも可笑しな話だが、鎮魂歌ばかり弾き続けてきた彼にとっては、まさに馴染みの場所なのだから仕方が無い。
いつもと違うのは、彼がヴィオラを持っていない事。
「もうすっかり、慣れてしまったな」
静かすぎる夜の霊園では、呟くほどの大きさの声すらも大きく聴こえる。
「楽団を恨み。音楽を恨み。それでも音楽を糧にしなければ生きていけなかった私は、どれほどに弱いのか」
そよ風が彼の頬を優しく撫でつける。
それはまるで、彼が奏でた鎮魂歌を聴き眠りについた者達からの慰めのような風だった。
「同じような境遇に遭っても、クラウ・カッツェは音楽を愛し続けたんだな……」
微かに聴こえる賑やかな街の音。
それすら苦に思っていた彼であったが、酒場で聴いた友の奏でる音楽で何かが変わった。
「鎮魂歌を弾かせれば間違いなく私は国内随一の弾き手だろう。だが、物悲しい曲などもう飽きた。君達もそうだろう?」
憎しみと悲しみで枯れ果てた涙が、今日は何度も頬を伝って地に落ちる。
「今度来た時には陽気な鎮魂歌を聴かせてあげよう。馬鹿馬鹿しくて、もう鎮魂歌など弾くなと叩き出されるくらいに陽気なものをね」
ロビンは一つ大きな深呼吸をして夜空を見上げた。
第三楽章へ続く>>
【第二楽章】 陽気な鎮魂歌
それは、彼にとって、偶然の再会だった。
白髪交じりの冴えない顔立ちをした貧乏貴族のロビンは、馴染みの酒場で一人酒を飲んで居ると、急に辺りが騒々しくなり、気づいた時には、楽器を持った連中が小上がりの小さな舞台に立って居た。
皆緊張した面持ちで舞台上に立っている中、ただ一人だけ、穏やかな表情をした男に目が止まる。
その男の顔は、ロビンの記憶のどこかにある顔をよく似て居た。
一体誰だっただろうかと酔いのまわり始めた頭で考えを巡らせていると、音合わせを終えて演奏をしだしたその音色に、酔いも一気に冷めて、舞台の横端に座るチェロを弾いている男を凝視する。
「……クラウ・カッツェ?!」
彼は、嘗ての同胞であり友人でもあった者の名を、小さく呻くように零した。
十年と少し前。
地方の貧乏貴族の三男として生まれたロビンは、少しでも家の為に何かできないかと考え、幼い頃からヴィオラを手に取り演奏する毎日を過ごしていた。
成人する頃にはその腕前はかなりのものとなっており、オリエント王立交響楽団の元団員だと言う男の耳に彼の噂が届くと、入団試験を受けてはどうかと言われ、彼から渡された推薦状手に彼は王都へと向かった。
国内最高峰の楽団オリエント王立交響楽団の入団試験は実に簡素なもので、団員達の前で演奏するだけ。
幸い、実力を認められ入団する事が決まったロビンは、同日に受かった没落貴族の末裔であるクラウ・カッツェと意気投合し、彼と同じ日々を過ごすこととなったのである。
だが、オリエント王立交響楽団は、世界最高峰と言われるが故に、貴族達の権力争いの場の一つとなっており、有力な貴族が顔を利かせ、それに逆らうものは実力がどれ程のものであっても、迫害される運命にあった。
ロビンとクラウ・カッツェはまさに、その標的とされ、満足な結果を残すことすら許されずに、楽団を後にすることとなった。
先に弾かれたのはクラウ・カッツェの方だった。
一度耳にすれば、きっとその音色に魅了されるであろう、彼の奏でる美しいチェロの音色が仇となったのは不運な話である。
当時、抜きんでた実力を持ち合わせて居たクラウ・カッツェを妬む者は多く、劣悪極まりない貴族達の言動に耐えきる事が出来ずに、僅か半年という短い在籍期間で彼は楽団を出て行った。
「ここに、君一人残して行くことを許してほしい」
疲弊しやせ細った友からの謝罪と心から心配してくれる優しさを感じ取り、ロビンは涙を流して何度も感謝したものである。
だが、クラウ・カッツェが楽団を去ってから二月後、ロビンもまた楽団を出ることとなった。
ロビンは、しばらく楽器に触れることすら出来ない精神状態に陥り、次第に音楽を嫌悪するようになった。
十年以上経った今も、音楽に対する嫌悪感は変わらず、その元凶たる楽団員であった過去を誰かに話す事もせずに、食べて行くために、時折死者に手向ける鎮魂歌を墓場の前で弾く暮らしを続けていた。
そんな彼にとって、その懐かしいチェロの音色は、感じ続けて居た嫌悪感を一瞬にして払拭してしまった。
自然と涙が頬を伝って落ち、負の感情が、徐々に徐々に洗われて行くのを感じ取る。
演奏が終わると、彼は誰よりも心をこめて、友に向けて拍手を贈り、残っていた酒を一気に煽ると、名残惜しい気持ちを抑えてロビンは酒場を後にした。
「悲観に暮れて、鎮魂歌ばかり弾いて。一体、私は何をしているんだ……?」
賑わいを増す酒場街から抜け出し、ロビンが向かったのは、馴染みの霊園。
霊園に馴染むというのも可笑しな話だが、鎮魂歌ばかり弾き続けてきた彼にとっては、まさに馴染みの場所なのだから仕方が無い。
いつもと違うのは、彼がヴィオラを持っていない事。
「もうすっかり、慣れてしまったな」
静かすぎる夜の霊園では、呟くほどの大きさの声すらも大きく聴こえる。
「楽団を恨み。音楽を恨み。それでも音楽を糧にしなければ生きていけなかった私は、どれほどに弱いのか」
そよ風が彼の頬を優しく撫でつける。
それはまるで、彼が奏でた鎮魂歌を聴き眠りについた者達からの慰めのような風だった。
「同じような境遇に遭っても、クラウ・カッツェは音楽を愛し続けたんだな……」
微かに聴こえる賑やかな街の音。
それすら苦に思っていた彼であったが、酒場で聴いた友の奏でる音楽で何かが変わった。
「鎮魂歌を弾かせれば間違いなく私は国内随一の弾き手だろう。だが、物悲しい曲などもう飽きた。君達もそうだろう?」
憎しみと悲しみで枯れ果てた涙が、今日は何度も頬を伝って地に落ちる。
「今度来た時には陽気な鎮魂歌を聴かせてあげよう。馬鹿馬鹿しくて、もう鎮魂歌など弾くなと叩き出されるくらいに陽気なものをね」
ロビンは一つ大きな深呼吸をして夜空を見上げた。
第三楽章へ続く>>
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