2017 03 << 1234567891011121314151617181920212223242526272829302017 05
PleaseRead
ねこまたまめこは夢を見る。 へお越しいただきありがとうございます。

■ご挨拶■
本ブログは、管理人である yumi が書く、自作小説を主としたブログサイトとなっております。
素人の書く文章であるため、何かと不都合があるかと思いますが、楽しんでいただけたら幸いです。

■著作権について■
本ブログ内全ての著作権は管理人であるyumiにあります。
文章・画像等の無断転用等は行わないようお願いいたします。
※著作権について詳しくはコチラをご覧ください。
Update
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。





--⁄--⁄--(--) --:--


▲pagetop
聖なる鐘の音

短編小説 【聖なる鐘の音】





 小さな町にある小さな教会の鐘の音が町を包む時。
 その語り部は語り始める。
 小汚い外套に身を包み、その外套に雨よけとして付いているフードを目深にかぶって顔を隠した語り部が語るのは、最も人気の高い伝説の物語。
 世界を滅ぼす悪を、一人の勇敢な少年が立ち向かい、悪を滅ぼし世界の平和を取り戻したという、ありきたりな英雄伝説。
 多くの語り部達が、幾度も幾度も語ったことのあるその物語を、その語り部もまた幾度目とも知れないほどに語った物語を、また語る。
 絶対の正義と、絶対の悪が存在し、正義が悪に勝って終わるその物語は単純だからこそ、彼の幼心を掴んで離さなかった。
 だが、いつしか彼はこの物語が好きではなくなっていた。
 聞こえたならば耳を塞ぐか、場を離れるかして、聞く事を自然と拒んでいた。
「何故、好きでは無くなったのだろうか……」
 彼の頭の中をいろいろな考えがよぎる。
 だが結局、これといったハッキリとした答え出てこなかった。
「馬鹿げている」
 黄金の指輪が嵌った手を、酷く重そうに持ち上げる。
 指輪をはめた瞬間から、彼の生きる道は、ただの一本しかなくなってしまったから。
「この世のものの全ての人が、善と悪に分かれていれば、どんなに楽だったか」
 重さに耐えかねたかのように、彼の手がぐったりと落ちて、椅子の横をぶらりぶらりと振り子のように揺れた。
「私にとってこの世とは・・・・・・」
 彼の呟いた言葉は、開け放たれた窓から微かに聞こえてくる語り部の声にかき消された。








「語り部よ。私の話を聴いてくれ」
 蝋燭の明りがぽつぽつと灯る、夜の暗い教会の中で、彼は語り部に語りかけた。
「私は王だ。この国の王なのだ」
 彼は身に付けている豪奢な衣服を気にもせず、地べたに座り込み手を組んで、黄金の指輪を見下ろしながら、ただ眠るように静かな語り部に、己の事をただ語った。
「私は王として生き、王として死ななければならない。だから私はここに来た」
 静かに、穏やかに、優しく、緩やかに、彼は語り部に語り続けた。
 次の日も、そのまた次の日も、彼は己の事を、己の人生を、ただただ、語り部に語り続けた。





 彼が語り部に己の人生を語り始め五日が経ったその日。
 彼は語り部に言った。
「語り部よ。私の話を聴いてくれ」
 一度たりとも返事も頷きすらも返さなかった語り部に、彼は何も気にする事無く話しかける。
「私はこれから戦いに行かねばならぬ。死ぬための戦いにだ」
 彼は悲しげに眉を寄せて、今にも泣きそうな、震える声で、語り部に話しかける。
「一度だけで構わない。私が死んだ日の、夜の鐘が鳴るときに、私の人生を語ってはくれないだろうか」
 語り部は返事をしない。
「私がこの世で生きていたことを、生きて、死んだ事を、そなたに語って欲しいのだ」
 語り部は頷かない。
「私は死が恐いわけではない。私は死ぬ事が嫌なわけではない。だが、私は私として存在できなくなる事が恐いのだ」
 語り部は何も示さない。
「語り部よ。お願いだ。たった一度で構わない。私が私であったという事を、そなたの声と言葉で。それが、私から私へ出来る、最高の弔いだろうから――――」
 彼は静かに立ち上がり、語り部に背を向け去っていった。
 語り部は、ただ静かに、去り行く彼を見つめていた。




 王が死んだ夜は、聖なる日の夜だった。



 町の中が騒がしくなり、王が死んだと、民は皆喜んだ。
「なんと酷い王だったのだろう!」
 民は口をそろえて王を非難し、死んだ事を喜び合っていた。




 そして、聖なる夜の聖なる鐘が鳴り響く時、その語り部は語り始めた。
 
 
 
『哀れで悲しき孤独な王が死にました』

 静かに、穏やかに、優しく、緩やかに、彼が語り部に語りかけていた口調を真似て。

『語りましょう。哀れで悲しき孤独な王の弔いとなる物語を――――――』



 語り部は語り始めます。
 
 
 
 
 
 民を生かすために王となり、民を生かすために死んだ、心優しき王の物語を――――――。







FC2 Blog Ranking






2008⁄12⁄29(Mon) 00:31
ジャンル:小説・文学  テーマ:自作小説  カテゴリー:自作小説
comment(0) trackback(0)
▲pagetop

【 コメント 】


【 コメントを投稿 】












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


trackback URL

| HOME |

Profile

管理人 : yumi
年齢 : 26
性別 : 女
職業 : SE
備考 : ここ最近の優先度。仕事>越えられない壁>睡眠>読書>観劇>弓道>ゲーム>ニコニコ。…どうしよう。なにかものすごく間違っている気がする。

Category
Comment
Link
Counter
Ranking+Alliance
Search
RSSフィード
ブロとも申請フォーム
ねこまたまめこメール便

名前:
メール:
件名:
本文:

QRコード
QRコード
blog chart

▲pagetop

Copyright © 2017 ねこまたまめこは夢を見る。. All Rights Reserved.
template by nekonomimige & blannoin photo by Encyclorecorder
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。