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ねこまたまめこは夢を見る。 へお越しいただきありがとうございます。

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心、捕われる
短編小説  【心、捕われる】 







 暖かな日差しから少しだけ逃げるように、人気の少ない静かな場所にある大きな広葉樹が葉を広げた下にある真っ白なベンチに座り、分厚い本を組んだ足の膝の上に広げたままに、静かに瞳を閉じて眠ってる彼を見つけたのは、恐らく偶然だったのだと思う。
 そよ風に揺れて、時折葉の隙間から覗く太陽の光が彼をきらきらと照らしている様子はまるで絵画のようで、彼の居るその空間は、不思議なくらいにとても穏やかだった。

 
 綺麗な人。
 
 
 男性に対してそんな風に本気で思ったのは、後にも先にもこの時しかない。
 顔が女性のように綺麗だという意味じゃなくて、彼の纏う空気とか雰囲気が、凄く綺麗だなと思って浮かんで来た言葉。
 私は時間が経つのを忘れて、彼の姿に魅入られ、見入っていた。
 だから、俯いていた彼の頭がゆっくりと持ち上がって、眼鏡の越しに覗く切れ長の目が開かれて、そこから真っ直ぐに向けられた視線に、声をかけられるまで気づくことが出来なかった。
「・・・・・・何か用?」
 少しかすれた低音の声で発せられた言葉が私に向けられたものだと気づくのに、瞬きを三回するほどの時間を要した。
 そして、気づいた瞬間、馬鹿みたいに鼓動が高鳴り出して、顔がなんだか熱くなってきて、どうしていいかわからなくなって、慌てて答えようとしたのだけれど、何を言っていいものやらわからずに、抱え持っていた教科書の存在を完璧に忘れて、両手を前に出して何でもないと手を振ったら、抱え持っていた教科書の角が、足の甲にクリーンヒットして、声にならない悲鳴を上げてうずくまった。
 物凄く恥ずかしいかったけど、笑い声はしなかった。その代わり、最初に聞いた声とまったく変わらない、少しかすれた低音の抑揚の無い声で紡がれた言葉が真上から降ってきた。
「痛そう」
 まだ痛みに堪えていた私の変わりに、落ちてしまった教科書を大きな手が拾い上げてくれて、埃まで払って、何故か頭にぽんと乗せてくれた。
「スニーカーだったら痛くなかったんじゃないかと僕は思うな」
 思わぬ発言に、なんだかよくわからないけど納得してしまいそうになった。
 確かに、パンプスなんて履いたから痛い思いをしたのかもしれない。
 けど、私の履いていた靴がパンプスだろうがスニーカーだろうが、原因はそもそも靴じゃない。
「えっと・・・・・・なんか、すみません・・・・・・」
「別に」
 なんとか痛みが和らいできた足の甲を数回さすり、頭に置かれた教科書を受け取って立ち上がる。
 立ち上がってみると、恐ろしく近くに彼が居るという事に気づき、また、鼓動が激しく高鳴り出す。
 顔なんて上げたら死ぬかもしれないとさえ思うくらいに、バクバクしていて、呼吸すら、なんだかまともにできていない。
「僕に何か用?」
「いえ。用は、無いんですが、えっと・・・・・・気持ちよさそうに寝てるなって、思って、見てただけです」
「そう」
 変な目で見られそうなのを覚悟の上で、必死に呼吸を整えながら素直に言った。
 その言葉には、そっけない返事が返ってくるだけで、他には特に何も言われなかったので、少し安心した。
 勇気を出して、恐る恐る顔を上げてみると、銀色の縁の眼鏡を押し上げて、呆れたような、笑っているような、凄く不思議な表情を浮かべて、私を静かに見下ろす彼の顔があった。
 間近で見ると、ベンチで静かに眠っていた彼の姿となんだか印象が違って見えた。
 温度が急激に低下したみたいな、物凄く冷ややかな雰囲気が、恐らく印象を変えているんだという事に気づいたのは、彼ともう少し親しくなってからだったけど、この時は、不思議だなって思っただけだった。
「えっと・・・・・・」
 何かを言わなきゃいけないような気がして口を開いたけれど、一向に言葉が出ずに固まっていると、彼が徐に左腕を持ち上げて、まるで時計を見るような仕草をした。
 けれど、彼の腕には時計は無い。
 それに気づいた彼は少し不機嫌に眉を寄せると、私を見た。
「今、何時かわかる?」
「えっと、二時前、です」
「ありがとう」
 彼は踵を返すと、ベンチに置いていた本を小脇に抱え、ゆったりとした足取りで校舎へと歩き去っていった。
 彼の背が見えなくなるまで見つめた後に、今だおさまらない高鳴った鼓動に気づいて、やっと頭の方の理解が追いついてきた。
 でももう、追いついたところで遅かった。

 
 
 私の心は、彼に、捕われてしまっていたから。







 春先の放課後は明るく、図書館に差し込む太陽の光は、橙色よりも白に近い色をしていた。
 その光の色を見て、彼と出会った季節も、確か、これくらいの時季だったことを思い出して、本を読む彼の手の袖口を軽く引っ張った。
「ねえ、覚えてる?」
「何を?」
「私と初めて会った時の事」
「記憶に無い」
「・・・・・・ですよね」
 相変わらず無関心な返事に凹む毎日。
 けれど、隣に座って一緒に居られるようになっただけ、あの頃よりもずっと進歩してる、とは思う。
「もう春だね」
「虫が嫌なんだ」
 読んでいる本から顔を上げず、目線も逸らさず、それでも会話をする彼は、本当に器用。
 話のピントをずらして返事をするのも、最初に出会った頃と変わらない。
 だけど、それも慣れてしまった。
「確かに虫が活動的になるよね。服になんだか一杯小さい虫がつくし、グロスつけてるときに限って、そこに虫が飛び込んで張り付くしで、私も虫は嫌い」
「僕とは嫌いの意味が若干違うみたいだけど。確かに、グロスはべたつくから嫌いだね」
「え?」
 また、会話が違う方向へ向いた。
 そして今、聞き捨てならない事を聞いてしまった気がする。
 グロスはべたつくから嫌い。
 それって、どういう意味合いで取ればいいの?
 私が内心色々な意味で戸惑っている間も、彼の態度は何一つとして変わらない。
 それはもう、憎いくらいに変わらなくって、彼の言葉に、態度に、一喜一憂している自分が馬鹿らしい。
「グロス・・・・・・つけない方が好きなんだ?」
「別に」
「・・・・・・じゃあ、私はつけない」
「その色のグロスは、似合ってると思うけどね」
「・・・・・・っ?!」
 まったく、心の底から悔しくて、憎らしくて、たまらない。
 いつも余所見しているくせに、それなのに、私が見て欲しいと思った所はちゃんと見ていて、それをまるで天気の話をするように、軽い調子で言葉を紡いで。
 私の心を捕らえたままに放してなんかくれやしないのよ。
「――――――意地悪」
「失礼だな。褒めたのに」
 不機嫌そうに眉を吊り上げて、呆れたような顔をちらりとこちらに向けた。
「今日は何時に無く不機嫌みたいだね」
「そんなこと無いもん」
「あっそう」
 ふて腐れて見せても、彼の心は揺れることすらしない。
 こんな風に簡単に、あっさりとひかれてしまうと、流石にちょっと悔しいよ。
「明日、デートしてくれるんなら、機嫌よくなる気がする」
「そもそも、君と僕とは付き合って無いからデートと言う言葉は適切じゃないと思うけどね」
「乙女の純情を真正面からぶち壊さないでよっ!」
「まあ、一緒にどっか行くのは別にいいけど?」
「ああ、そうですかっ! ・・・・・・って、え?」
 半ばやけっぱちで言った提案に、まさか了承の返事が返ってくるとは思わなかった。
「何? その、ハトが豆鉄砲食らったみたいな漫画的面白顔は」
 続きの一言が大いに余計だったけど。
 でも、この機会を逃したくなかったから、全力で聞き流す事に決めた。
「行こう! うん、デートじゃなくてもいいからどっか遊びに! ドタキャンは不許可だからねっ!? うーん、どこ行こっかなー」
「行き先決めてから提案するんじゃないの? そう言うの。まあ、君らしいけど」
「当たって砕けろが私の精神なの! そうだ、映画行こうよ、映画! あ、ラブストーリーとか駄目かな?」
「別に」
「じゃあ映画で決定! わー、今から楽しみっ!」
「映画見終わってからでいいから、本屋に寄る時間は確保して」
「わかったっ!」
「――――――浮かれすぎ」
 本当に、心底呆れた顔を向けられても、今は全然腹が立たない。
 だって、本当に、嬉しすぎて。
「ねえ」
「なに?」
「たまにはスカートにハイヒールかパンプスでも履けば? 足の甲に教科書落とす心配は無いんだし」
 何よ。何よ。何よ。
 覚えてるなら、はじめから言ってよっ!
「そうさせていただきますっ」



 私の心は、初めて出会ったあの頃からずっと、彼に捕われたまま変わらない。
 
 
 
 
 ねえ。
 
 
 
 振り向いてくれなくてもいい。
 唯一の存在になれなくてもいい。
 
 
 ずっとずっと、私の心を捕らえ続ける君を。
 ただ好きでいるのは良いよね?





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2009⁄05⁄07(Thu) 00:09
ジャンル:小説・文学  テーマ:自作小説  カテゴリー:自作小説
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備考 : ここ最近の優先度。仕事>越えられない壁>睡眠>読書>観劇>弓道>ゲーム>ニコニコ。…どうしよう。なにかものすごく間違っている気がする。

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