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ねこまたまめこは夢を見る。 へお越しいただきありがとうございます。

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振り返らない君 <前編>
 少しハスキーな低音ボイス。
 その声で紡がれる愛の言葉は、私の一番のお気に入りだった。
「ねえ」


 でも―――。


「私の事、好き?」


 彼の心は。


「好きだよ」


 もう、私から離れてる。


「私も大好きだよ」




 彼とこうして居られる時間は、もう、僅かしかない。






【振り返らない君】





 高校生活最後の夏が迫る今日。
 夏休み直前の期末試験を終え、その試験結果が配られて、それらの答え合わせをする以外に何もやることのない一週間がやってきた。
 期末試験の勉強から開放された喜びと、これから本格的に始まる受験勉強の見えない圧迫感からか、教室内のあちらこちらで、もうすぐ訪れる夏休みの話が、今まで以上に大いに盛り上がっていた。
 別段成績が悪いわけでもなく、必死でやらなきゃならないほど高いレベルの大学を目指しているわけではない私は、扇子をぱたぱたと仰ぎながらも、少なくとも見た目は真面目そうに受験勉強をしている親友のアキさんに声をかけた。
「ねえ、夏休みにさあ、どっか遊びに行こうよ」
「彼氏居るだろ、彼氏。そっちに相談しなさい」
 鐘を打つように返されて、思わず一瞬言葉を詰まらせた。
 でもここは、今までの経験上、めげちゃいけない所であるのは心得ている。
「ヨウ君とはもう約束してますもん」
「ならそれでいいじゃなーい」
 あっさりと撃沈されそうになる。
 ぱたぱたと、扇子の仰ぐ音だけがよく聞こえた。
「女友達との遊びは別です! 遊ぼうよ! 騒ごうよ! たまにはさあっ?!」
「それは、こうして真面目に受験勉強している私への嫌がらせか? 迷惑なっ」
「息抜きは必要だよー? 勉強ばっかりしてても疲れるだけだよー?」
「皆自由に騒ぎ過ぎて、いつも事後処理で私は疲れてるんだけど。そこはわざと見ない振りしてないか?」
「うっ……き、気にしちゃダメ」
「ちゃんと目を見て言いなさい、目を見て」
 嫌味を言いつつも、ちゃんと手を止めて話相手をしてくれるアキさん。
 なんだかんだ言って、すごく優しい。
 よく一緒に遊ぶ他の女友達も集まって来て、アキさんにキツイ突っ込みを入れられつつも、夏休みの計画を幾つか立てることに成功して、気分はもう、夏休みに向けて浮かれ始めていた。



 選択科目の有無で下校時間が疎らになってしまう現在でも、一緒に帰れる時には必ず一緒に彼と帰っていた。
 インプットしたものは殆どアウトプットしたくなる性分の私は、今日もいつものように、一日の出来事を話しながら歩く。
「でね。皆で海に行くことにしたの!」
 彼は元々口数が多い方じゃない。
 だからほとんどいつも、私が一方的に話しているような状態。
 けれど、嫌な顔ひとつせずに、少しハスキーな低音ボイスで、包み込むような温かく安心感のある短い相槌を時折打ちながら、私の話を最後まで聞いてくれる。
 私には少し過ぎた彼だと思う時が時折あるくらいに、彼はとても優しい人。
 私はそんな彼が、好きだった。



 だから、気づかなかった。
 気づけなかった。
 もしかすると、気づく事が許されていなかったのかもしれない。


「ハル」
「なあに?」
「僕を、振って欲しい」



 いつもと変わらない優しく穏やかな声で紡がれた、優しくて残酷な一言が告げられるこの瞬間まで、私は、続くであろう幸せの行く先が、とっくに途切れていたことに気付かなかった。






 なんでだろう。
 どうしてだろう。
 突然心にあいてしまった空虚の存在を、ただ必死に考えていた。
 思い出せるのは、眼鏡越しに向けられた真っすぐな瞳と、少し震えた彼の声。





「ハルの事は、好きだよ」
 優しく頬に手を当てて、少し震えた声が私の心を締め付けた。
「今でも変わらずに、ううん、付き合い始めたころよりもずっと、ずっと、好きだよ」
 頬に触れた手が顎をなぞり、親指が静かにそっと唇をなぞった。
「でも、気づいたら、ハルを見る時間よりもずっと長い時間、ハルの隣りに居るアキさんを眼で追っていたんだ」
 瞼を閉じて、苦しそうに言葉をはいて。
「気づかなければよかったと後悔した。何度も、何度も―――」
 唇に触れていない方の腕が私の腰を優しく抱いた。
「ハルに呼ばれて振り向くたびに、僕は君を傷つけてた。君が知らないところで、僕は、何度も何度も君の思いを裏切って、傷つけてたんだ」


 不思議だった。
 どうして彼はこんなに優しいんだろうって。
 私よりも好きになった人が居るのに、彼は私を傷つけないために、自分自身を傷つけて、追い込んで、嫌な顔も、苦しい顔も、一つだってせずに、私の事を振り返ってくれていたなんて。


 だからかもしれない。
 涙は全然出てこなかった。
「僕は、自分でも呆れるくらいに不器用みたいなんだ」
 見た事のない、弱々しい笑みを浮かべて彼は言う。
「これは僕の我が儘だ。勝手すぎる思いだ」
 一度だって我が儘も言わなかった彼が、初めて私に言った我が儘。
「僕を振って欲しい」
 君が少しでも傷つかないのなら、僕はいくらだって傷つくよ。
 そう、小さな声で囁いて、深い深い口づけをして。



「大好きだよ」



 彼は静かに涙を流した――――――。





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2009⁄06⁄07(Sun) 19:24
ジャンル:小説・文学  テーマ:自作小説  カテゴリー:自作小説
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